葦が色づく頃、カイツブリの姿がその林の中に見え隠れする。 琵琶湖も季節の違う彩を見せ始めている。 例えば、司馬遼太郎も24巻の中で、カイツブリと松尾芭蕉について書いている。 「かいつぶりがいませんね。 良く知られるように、この水鳥の古典な名称は、鳰である。 水にくぐるのが上手な上に、水面に浮かんだまま眠ったりもする。 本来、水辺の民だった日本人は、鳰が好きだった。鳰が眠っているのをみて、 「鳰の浮寝」などといい、また葦の間に作る巣を見て「鳰の浮巣」などとよび 我が身の寄るべなき境涯に例えたりしてきた。 琵琶湖には、とりわけ鳰が多かった。「鳰の海」とは、琵琶湖の別称である。 「淡海のうみ」という歴史的正称は別として、雅称としては「鳰の海」のほうが 歌や文章の中で頻用されてきたような気がする。 、、、、 俳句では鳰そのものは冬の季題になっている。もっとも、芭蕉が近江で作った 鳰の句は、梅雨のころである。 五月雨に鳰の浮巣をみにゆかむ この句では初夏のものとして鳰が登場する。鳰は夏、よし、あしの茂みの中に 巣を営む。句に「鳰の浮巣」が入れば季題としても初夏に入り込むらしい。 琵琶湖とその湖畔を、文学史上、たれよりも愛したかに思われる芭蕉は、 しばしば水面のよしの原を舟で分け入った。この場合、五月雨で水かさを 増した湖で、鳰たちが浮巣をどのようにしているか、そのことを長け高い 滑稽さを感じてこの句を作ったようである。 鳰というのは、あっという間に水面から消える。 かくれけり師走の海のかいつぶり とも、芭蕉は詠んだ。また山々にかこまれた春の琵琶湖の大観を一句に 納めたものとしては、 四方より花吹き入れて鳰の海 というあでやかな作品も残している」。 「暦便覧」には、この季節、小満は「万物が次第に成長して、一定の大きさ に達して来るころ、万物盈満(えいまん)すれば草木枝葉繁る」と記されている。 草木が生い茂り、山の緑が濃くなる頃であり、裏山の檜や韮の樹にも生気 に満ちた木々の香りが立ち込める。この頃、古来より親しまれてきた山菜 のひとつ、わらびも育つ。わらびの根から採る「本わらび粉」はわらび餅 の原料で、強い粘り気と豊かな自然の風味が特徴であり、竹林の向こう にいる農家では古老がわらび餅をつくる。 更に七十二候では、 ・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)5月21日頃 蚕が桑の葉を盛んに食べだす頃。蚕がつむいだ繭が美しい絹糸になる。 海ではきす、湖ではにごいや小鮎が捕れ頃となり、その味にまた一つ加わる。 ・紅花栄(べにばなさかう)5月26日頃 紅花の花が咲きほこる頃。紅花は染料や口紅になり、珍重された。 ・麦秋至(むぎのときいたる)5月31日頃 麦の穂が実り始める頃。「秋」は実りの季節を表し、穂を揺らす風は「麦の秋風」。 刈り取りを待つ麦畑は一面の黄金色。この頃、降る雨を麦雨ばくうと呼ぶ。 枇杷が黄色く色づき、四十雀しじゅうからがツィピーツィツィピーと啼いて 緑の山並みに彩りをつける。 どこかで蛙が鳴き、田圃に水が引き込まれ、小さなせせらぎが微妙な音を 奏でていた。水の張られた田圃には、7、8羽の白鷺がその白さを水面に 映しながらひと時の安らぎと食べ物を得ている様でもある。 春から夏への季節の移ろいが始まり、大きく育った草花がそれぞれの花や 大きな葉を気の向くまま広げていた。
2016年5月31日火曜日
志賀、小満
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